BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 極・私的回顧

僅差の完敗

12R決勝戦
①関 浩哉(群馬)13
②池田浩二(愛知)15
③中島孝平(福井)17
④片岡雅裕(高知)06
⑤桐生順平(福島)07
⑥中村晃朋(香川)09

 深紅の優勝旗を鷲掴みにしたのは、中学でも高校でも県大会のベスト8で涙を呑んだ「土佐のマー君」だった。おめでとう!!

 最たる勝因はスタートだろう。コンマ15前後で並んだスロー3艇に対し、4カド片岡はコンマ06まで突出。ホーム向かい風も味方につけて、1マーク手前でカド受けの中島を完全に飛び越えた。勢いに任せて2コース池田もガブリひと呑み。その間にインからなんとか伸び返した関を横目に、スッと舳先を内に寄せて鋭角な割り差しのハンドルを突き刺した。

 ただ、それで突き抜け・ひとり旅とはならない。内フトコロを貫かれた関が小回りで応戦し、バック直線はぴったり舳先を揃える一騎討ち。私が節イチと謳い続けた関13号機、さすがのレース足だ。

 さらに、その後方からはアウト差しの中村が不気味に伸びてもいた。もちろん単なる偶然の領域だが、中学や高校で野球に打ち込んだ3人が、深紅の旗を目指してぶつかり合っている。で、2マークでもっとも不利な晃朋がアタックをかけた相手は、同じ香川支部の片岡だった。血で血を洗う仁義なき戦い? いや、この大会は特殊だからして「香川県立善通寺第一高校野球部の晃朋選手が、高知県立中村高校野球部の片岡に立ち向かう」という、まっとうな真剣勝負だ(笑)。

 四国対決が過熱する中、群馬の中学時代に野球に精を出した関が狙いすました差しハンドルを突き入れた。2周ホームは香川の猛攻を凌いだ高知代表×的確に差した群馬代表の一騎討ちPART2。
 昨日までのパワー差なら、関13号機が内から抜け出す?
 私の目にはそう映ったが、実際は片岡9号機が力強く伸びて関の舳先を完封した。今日の片岡はスタートだけでなく、機力的にも優勝に値するパワーを有していた。天晴れだ。

 うん、今節の私はこれで決勝戦について語るべき言葉がない。資格がない、と言うべきか。初日から今日まで関関関関関関と13号機だけを絶賛し続け、片岡9号機を「パンチはないけど器用に立ち回れる上位のど真ん中」などと軽くあしらっていた私に、何を語る資格があろうか。関クンだけでなく、私もまた高知代表の熱闘球児に打ち負かされたのだ。深く反省しつつ、甲子園の土ならぬ尼崎の水を持ち帰るとしよう。

   ◎   ◎   ◎
 最後にちょいと余談をば。今節のスタジアムが兵庫県だっただけに、いつにも増して甲子園カラーの濃いぃイベントだった。でもって、今節はレーサーになる前にバリバリ真剣に白球を追っかけた“熱闘球児”が17人も参加していた(手元のプロフィール資料参照)。登録番号の上から順番に紹介しておこう。

★今垣光太郎(石川)⇒途中帰郷
★飯山 泰(長野)⇒予選敗退
★石野貴之(大阪)⇒途中帰郷
★山田哲也(千葉)⇒予選敗退
★池永 太(宮崎)⇒準決勝敗退
★小林 泰(山梨)⇒準決勝敗退
★片岡雅裕(高知)⇒優勝!
★前田将太(福岡)⇒準決勝敗退
★佐藤 翼(埼玉)⇒準決勝敗退
★丸野一樹(京都)⇒予選敗退
★中村晃朋(香川)⇒決勝戦3位
★石丸海渡(愛媛・甲子園出場)⇒準決勝敗退
★椎名 豊(群馬)⇒準決勝敗退
★関 浩哉(群馬)⇒準V
★立具敬司(和歌山)⇒予選敗退
★梅原祥平(鳥取)⇒予選敗退
☆遠藤エミ(滋賀・ソフトボール)⇒予選敗退

 ってな感じで、オフィシャル配布のプロフィールに記されている球児は、ソフトボールの遠藤も入れて17人(笑)。で、今大会のMVPはもちろん優勝したマー君として、同時に甲子園らしく「影のMVP」を認定してしまおう。それは……もう、バレバレですかね。

影のMVP
5206梅原祥平クン(鳥取・129期)

 はい、誰がなんと言おうと梅キュンで決まり。両手を目いっぱい前後に振って行進した開会式。『村岡賢人さんの代打で来ました。頑張りまーーーす♪』とオクターブ高い声でファンのド肝を抜いた選手紹介。ピットでは誰もが感心するほど甲斐甲斐しく動き回り、その合間を縫って部品交換など不断の努力を重ね、3日目にはじめて記念レースで舟券に絡み、5日目には気合の3カド&コンマ06突出スタートで隣県の大先輩・西島を叩き潰し(2着)……ほぼほぼ毎日、元気いっぱいの話題を我々の元に届けてくれた梅原クンだった。

 2人しかいない鳥取県で、村岡賢人の代打。現在の勝率は2点台だからして、今後も師匠・村岡のF休みなどがない限り、この大会に出場することは難しいだろう。だからこそ、刹那的にきらきら輝く梅原クンの姿がどうにも愛おしいものに思えた。

 当ブログ(旧ブログ含む)の取材班は、20年ほど前からほぼほぼSGなどのビッグレースばかり追いかけ続けてきた。当然、取材現場で勝率2点台の選手に出会うこともなし。ところが5年前に全国ボートレース甲子園が開幕してからは、和歌山代表の立具クンや北海道代表の門間クンなどなどサプライズなB級選手が登場。超一流選手ばかり目の当たりにしていた私にとって彼らの存在はひどく新鮮で、妙な感覚だが息子のように思えたりもした。

 そして、そんな私の父性本能?を恐ろしく刺激したのが、今節の梅原クンなのだ。彼の一挙手一投足に目を細めつつ、プロフィールを調べたりもした。大半は野球に関するものだった。
 鳥取県米子市立の小中高で野球に明け暮れ、それでも飽き足らず大学でも白球を追いかけた。自らが記した特技は「野球」。それ以外で目を惹いたのは、「小学校教諭一種」の資格を持っていること、うどんとナンプレが好きなこと、きのこと貝が嫌いなこと、くらいか(笑)。

 で、そんな野球バカ一代みたいな梅原クンが「ボートレーサーとしての目標」という質問に書き記した答えは、これだ。
『SGで優勝』
 うむ、これは大半の若手選手がこぞって書く常套句なのだが、もちろん書いただけでは何の意味もない。是非ともこの素晴らしい夢に邁進して欲しいし、その前にやって欲しいこともある。それは
――村岡師匠を実力で打ち破って、再び甲子園にやって来い!
 だ。あれれ、ちょいと余談のはずが、なんだか本題よりも長くなってしまった気が……??(photos/チャーリー池上、text/畠山)