BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――気合の前検日

 今節、もっとも強い気持ちでこの一戦に臨むのは、当然、高田ひかるである。地元唯一の参戦となり、その責任感も強く抱いていることだろう。ところが、高田が引いたのは2連対率23.4%の13号機。こともあろうに、ワースト機を引いてしまうとは。だが、もちろんガッカリしている場合ではないのである。前検終了後、高田は早くも本体を割った。会見で明かしたところによると、セット交換。高田が前検日から本体整備をするのは決して珍しいことではないのだが、しかし大がかりな部品交換はそうそうないこと。それほど感触はよろしくなかったのだろうし、同時に何としてでも立て直す気合が感じられる整備だ。その後も、高田は整備時間いっぱいを使って外回りの整備も行なった。その姿が、どんな思いでここにやって来たかを表現している。

 もしかしたら同じくらいの思いを抱いているかもしれないのは、長嶋万記だ。ドリーム戦1号艇。長嶋にとって、これは栄誉であり、そして絶対に逃げなければという責任感も生じることであろう。どういうわけか、長嶋はこの大会との相性がよろしくない。長嶋ほどの女子実力者がいまだ優出経験がなく、予選落ちも何度もあった。ドリーム1号艇となればそうはいかない。今回こそ、の思いは強くあるはずだ。今日の長嶋は、時間いっぱいプロペラ調整。ドリーム組は前検1班だから、最も早く前検航走を終えたというのに、整備室を出てきたのはいちばん最後の一人だったのだ。それがやはり気合の証。長嶋も2連対率が低いモーターを引いているが、それで怯むことなどまったくないのである。

 一方、ドリーム戦で唯一、好素性のモーターを引いたのが寺田千恵だ。61号機は前節で澤大介が引いて、準優と優勝戦はチルト3度で出走。つまり、寺田が受け取った時点ではチルト3度のままのセッティングであり、プロペラだったわけだ。というわけで、スタート練習は3本ともダッシュ! 3号艇だから、3カド想定!? ということで細川裕子はかなり寺田の3カドを警戒しているようなのだった。会見で寺田が言ったのは「チルト3度を満喫しました」。なんでも回転が「ギャンギャン上がっている」そうで、三島敬一郎の見立て通りの出足型の特徴がチルト3度でも出ている様子。というわけで、どうやら寺田はチルトを下げてペラを叩く様子だが(3カドもしないようだ)、もちろん明日の感触次第でまだわからない。ぜひぜひ直前情報をご確認いただきたい。

 三島のS評価=60号機を引いた若狭奈美子は、当然注目の的となってくるわけだが、その若狭がペラ室を出るなり、通りかかった山川美由紀を呼び止めた。前検タイムがそこまでではなかったという報告だったようなのだが、では一番時計は?「ナッキーです!」と告げ、さらにこう続けた。「66ですよ!」。ようするに6秒66ということ。

「66!?」。山川が驚きつつ足を止める。そう、これはダントツの時計! いつも速い前検タイムを叩き出す高田よりもコンマ05、速いタイムなのだ。そうでなくとも、6秒6台はナッキーと深川麻奈美のみで、山川が驚くのも無理はない。誰もが唸る、ナッキーの好時計なのである。

 そのナッキーこと藤原菜希は、報道陣にタイムのことを問われても、飄々としたもの。もちろん抜けたトップタイムであることは認識しているようで、しかしそれに浮足立つこともないし、特に笑顔も見られないのであった。まあ、ボートレースは前検タイム(展示タイム)競走じゃないしね。ただ、攻撃力のある藤原がこういうタイムを出したということは、実に胸が躍りますね! 明日は1号艇と5号艇だが、どんなレースを見せてくれるか本当に楽しみ。

 さてさて、係留所へと降りていく橋の近くで装着場を眺めていたら、背中から「キャッ!」という悲鳴が聞こえてきた。振り向くと、声の主は中里優子。何事かと思ったら、中里の視線の先=水面にはグローブが落ちているのだった。あらら、中里の手が滑ってグローブを放り投げてしまったようで、それが水面へと落ちてしまった様子。それを見つけたのが中村かなえで、拾いに行こうと駆け出したが、中里がそれを制した。というのも、係留所への橋は水面からそれほど高くなく、しかも岩がむき出しになっているので、簡単に降りられるのであった。バツが悪そうに苦笑いしながら、グローブを拾う中里。悪いツキはここで一緒に落としたということで、明日からのレース、頑張ってください!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)