BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――リベンジ!

 6コースがやや遅れた以外は、ほぼ横一線のスタート。その時点で、関浩哉はひとつの関門を力強く超えてみせた、と言っていいだろう。
 事情は、少なくともピットにいた者は誰もがわかっていた。1マークを力強く先マイ。松井繁がまくり差しを放ってきたが、寄せ付けなかった。先頭に立った瞬間。水面際でレースを見ていた人たちからは、やけに優しい拍手が巻き起こった。すかさずあたりを見回すと、群馬支部以外の選手も拍手を送っているではないか。誰もが、昨年末の失敗についてはその痛さを理解していた。だから、そのある種の“重圧”を克服したことに、選手仲間はシンパシーのようなものを感じていたのではないか。

 もちろん、群馬支部の選手たちはテンションを上げていた。土屋智則はなぜか離れたところから見ていて、優しい目で水面を見つめていたのだが、毒島誠と椎名豊は水面際のフェンスにかぶりついている。椎名は、もともとはやや後ろからレースを見ていたから、矢も楯もたまらずに前に出ていったということだ。そして3周2マーク、毒島と椎名は関に向かって両手を掲げて、何度か飛び跳ねてみせた。なぜか西山貴浩も同じように跳ねていたけれども、それは最後方を走る石野貴之に向けたものだったようだが(笑)。

 やはり、関のなかにあの失敗はまだ根を張っていたようだ。レース後の囲み会見では、レース前に手が震えたと言っている。また、スタートは様子を見たそうで、コンマ16というタイミングを聞かされて一瞬だけ顔をしかめ、「もっといいスタートを行かなければならなかった。気持ちの問題ですね」とも口にしている。あのとき、落ち込んだ様子で食い下がる報道陣に一言二言応えただけで走り去り、着替えを終えて帰路に就く際にも俯いていたのを思い出す。まだ完全に払拭できていないなかで迎えた、このPGⅠの優勝戦1号艇。関本人のなかには、あのときの悔いを振り払わなければ何も始まらない、という思いがあったのかもしれない。そして逃げ切ってもなお、完全に吹っ切ったという実感を持てないでいるようにも見えてはいた。

 しかし、先に述べたようにスタートはほぼ横一線。優勝戦のインコースとしては、ほぼ1艇身のスタートは間違いなく合格! そして自分以外は全員がSGウィナーという強豪を向こうに回して逃げ切ったのだから、リベンジは間違いなく果たされた! そう言っていいはずだし、関にもそう思ってほしい! 今後、いつか出会うかもしれないSG優勝戦の白カポック。そのときには、これを大きな成功体験として思い出し、力強くピットアウトしてほしいと、僕はそう思う。いや、きっとそうなることを、表彰台のてっぺんに立つことも含めて、そう信じたい!

 関が優勝者の一連の流れに身を任せている間、他の5人は静かにピットに戻ってきている。思いのほか淡々としていた……いや、年明け一発目のPGⅠということが、敗者の深刻さを薄れさせていたのか。今年はまだ始まったばかり。ここで優勝すればアドバンテージになるのは間違いないが、いくらでも挽回が利く、そんな季節である。スタートダッシュを決めた関がひとまず賞金ランクトップに立つわけだが、それはSG一発で逆転できる差。1月14日の夜に、そこまで悔恨を炸裂させるのは少し早いということなのかもしれない。
 12月24日の夜の住之江で、顔を思い切りしかめ、最後はしゃがみ込んでもいた平本真之も、一瞬だけ顔を歪め、頭を上下に振っていたが、そこで真顔に戻って前を向いた。しっかりと2コースをキープし、五分のスタートを切って、敗れはしたものの差しハンドルを入れた。あの悔いしか残らなかった戦いに、ひとまずは区切りをつけられたのではないか。そしてこれまた、そうであってほしいと思う。もちろん、最高峰の舞台でやってしまったことを、PGⅠですべて克服したとは思わない。しかし、年頭のPGⅠ優出は好発進ではあり、この流れを掴んだまま、今年の年末もふたたびあの舞台へ。そこで完全なる払拭を果たしてもらいたい。

 静かだったとはいっても、敗れた無念がそこになかったわけではない。唇を噛み締めた石野貴之、2着でも満足感がまるで見えなかった茅原悠紀、6コースから何もできずに力ない表情にもなった馬場貴也、そしてタイトル防衛ならず、その屈辱を捨て去るように早足で姿を消した松井繁。それぞれに抱えたものがあったに違いない。いずれもこの後はSG戦線に登場し、栄えある年末を目指す。そこできっと、今日以上の戦いを見せてくれることだろう。そう、令和6年はまだ始まったばかりだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)