10Rをなんとか逃げ切った磯部誠が、安堵の苦笑いを浮かべた。今日は8Rまでイン1勝という、白カポック受難デー。ここで大敗すれば終戦濃厚となってしまう後がない状況の磯部だったわけだが、3号艇にはエース機・新開航がいるという厳しいカードでもあった。決して簡単な1号艇ではなかったのだ。しかし、新開の攻めを受け止め、新田雄史らの追撃をもしのいで逃走勝ち。望みがつながったのと同時に、困難な状況を乗り切ったのだから、そりゃあ胸を撫で下ろそうというものである。
その前の9Rでは、枝尾賢が逃げ切っている。ただ、これも決して楽な状況ではなかった。2番手から桐生順平が猛然と追いかけてきていたのだ。桐生の追い上げといえばもはや代名詞のようなものであり、しかも地元。いったんは濱野谷憲吾との2番手争いになっていたが、走り方を熟知しているといった捌きで獲り切っている。その勢いで、枝尾を猛追したのである。枝尾としても安心する暇など一瞬もない逃げ切りだったに違いない。というわけで、枝尾も安堵の表情。磯部よりは苦笑要素は薄かったが、オール3連対キープも含めて、とにかくホッとした勝利だっただろう。
それにしても、桐生の鬼気迫る走りには感動すら覚える。昨日の12R、三嶌誠司のまくりを受け止めたのにしても、2マークで開いた内に一気に艇を運んで2番手をもぎ取ったのにしても、その後も先頭の平本真之を諦めることなく追いかけたのにしても、闘志、あるいは意思がハッキリと伝わってくる走りっぷりだった。このレースでの枝尾を追ったレースにしても同様。桐生がいかにこの地元SGに懸けているかがハッキリと立ち上る闘走である。ピットに上がった桐生は、一瞬だけ天を仰いだ。そして、がっくりとうなだれた。2着ではひとつも満足していないのだ。こうした思いの強さはきっとファンにも届く。戸田ファンは桐生の巻き返しを信じて、祈ろう。
それにしても、今節は本体整備の場面を本当によく見かける。3日目あたりには落ち着くことも普通にあることなのに、今日も後半レースの時間帯で飽くことなく整備をしている選手が見かけられた。それも、レースを終えて速攻で整備開始、というパターンが少なくない。たとえば8R終了後の馬場貴也。ここまで馬場らしくない着順が並んでおり、今朝はリードバルブ調整をしていた旨、ここでも記しているが、今日の8R後は速攻で本体を割った。意地を見せるためにも、ついに決断したというところか。
9R終了後には徳増秀樹が整備を始めている。初戦1着と好発進を決めながら、その後は尻すぼみの感が拭えないだけに、本体にしっかりと喝を入れることをチョイスしたのだろう。濃い戦いを見せるためにも、パワーアップは急務。予選突破はかなり厳しくなってしまっているが、それでも立ち止まっているわけにはいかないのだ。
そして、同じタイミングで整備を始めたのが桐生なのである。今節の桐生は整備の鬼になり切って、実に多くの作業をしてきた。機力が一息だからに他ならないのだが、ピットでもまさに鬼気迫る動きを見せているのである。明日の勝負駆けは2号艇と3号艇。万が一にも失敗はできないし、同時に少しでも準優の枠を内にしたいところだ。明日もレース直前までやれることをやり尽くす姿が見られることだろう。
もちろん、桐生と同じ思いを抱いて走っているのは地元勢みな同様。中田竜太は整備室の出入り口付近にある調整所でペラを叩いているのだが、本当にこの場でよくよく姿を見かけるのだ。桐生には地元エースとしての責任感もあり、その点については中谷は希薄なのかもしれないが、しかし自分が大願を果たすための努力はとことん尽くしている。それはおそらく中澤和志も変わらないだろう。
で、昨日あたりから、中田と浜田亜理沙の絡みをやけに目にするようになった。それまでもずっと話をしながら、情報を交換しながら、調整を進めてきたはずだが、どういうわけか視界に入ってくることが多くなっているのだ。浜田は初SGだけに、絶対に結果を残さなければならないという立場ではないかもしれない。しかし少なくとも水神祭は果たし、地元SGの水面に存在感を発揮したい思いがないわけがないのである。準優進出の目も残しているだけに、明日の勝負駆けではとびきりの気合を見せてくれるはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)