春の嵐、までは大袈裟かもしれないが、強風が吹き荒れる4日目。ピットにも時折吹き込む風はとにかく冷たい。これは選手たちは大変だよなあ。係留所で回転調整をしている白井英治の顔が、ほとんどしかめっ面になっている。そりゃそうだ。戸田において北風は対岸から吹き付けるので、係留所には風よけになるものがまったくない。つまり白井は強風に身をさらしながら作業をしているのである。そりゃあ、まるでレースで敗れた後のような顔になるのも当然である。
もちろん、だからといって仕事の手を緩めないのがボートレーサー。波立つ水面でも試運転を繰り返し、その手応えをもとに調整に向かう。足合わせをしていたらしい寺田祥と遠藤エミが、ボートを係留所につけたあとにやはり風を浴びながら情報交換をしていた。いったん整備室などの暖かいところに場所を移して話し込めばいいとも思ったりするわけだが、そんな数十秒も惜しんで彼らは、寒さに耐えながら言葉を交わすわけである。
なにしろ、1R1回乗りの豊田健士郎は、レース後に試運転用の艇番を装着し、ボートをリフト近くに移動した。すぐにでも試運転に飛び出そうという勢いである。風が吹こうが水面が荒れようが、今日はまだまだ走り込む心づもりなのだ。俺だったら今日は仕事辞めちゃうなあ、などと思ったワタシはきっとSGレーサーにはなれないんでしょうね。残り2日、豊田の水神祭を応援しちゃうぞ。
レース後の選手同士の絡みは、けっこう笑いが混じるものにもなっていた。1R1着の菊地孝平と2着の磯部誠はリフトの隣同士に乗り、陸に引き上げる前から声を張り上げて会話を交わしていた。陸からはまだ姿が見えないのに、声だけが響いてくるのだ。それは明らかに水面状況、もしくは風の状況を話し合うもので、「マジかよ~」的な、風の強さを呪う響きがたしかにあった。陸に上がってきた二人の目は細くなっており、思わず笑ってしまう状況ということなのだろう。
6コースから何もできなかった大上卓人は、6着大敗は悔しいに違いないのに、もう笑うしかないといった感じで出迎えた中国地区の面々と笑顔を交わし合うのだった。大上を囲んだ面々ももちろんこの水面を走るのであって、大上の気持ちもよくわかるのであろう。
2Rを勝った濱野谷憲吾も、苦笑交じりの表情で上がってきている。2コースから巧みに差したのはたしかだが、快勝という感覚はなかったかも? なにしろ江戸川で荒れ水面は慣れているし、こうした水面で大レースを戦った経験も数知れず、その百戦錬磨ぶりはさすがと言うしかない。それでも、レース後に浮かぶのは苦笑。難しい水面でのレース後というのはそういうものかもしれませんね。
で、ピットでは桐生順平がさまざまな選手に声をかけているのが目立つのである。今節は選手班長を務めており、他の選手への気遣いという面もあるのだろう。もちろん、戸田の水面を知り尽くしてもいるから、こうしたときの対処や注意すべき点というのもよく知っている。それを伝えて、選手たちが少しでも安心して戦える状況にしようと腐心しているように見えるわけだ。自身の調整もしっかりと進めながら、周囲にも気を配る。応援したくなるというものである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)