BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――緊迫

 

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 うわっ、と声があがり、空気は一気に緊迫度を増した。10R、中田竜太が単騎6コースからスタートを決めて内を締めに行き、これに辻栄蔵が絡んで、中田が落水、辻が転覆した。2コースに動いていた菊地孝平も影響を受け、田村隆信と湯川浩司は危険回避のハンドルで難を免れている。どう見たって危険な場面だっただけに、ピットにいた誰もが不安を掻き立てられた。

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 レスキューの発着場所に真っ先に駆けつけたのは田中信一郎だ。田中は心配そうに1マークのほうを見つめている。さらには中田の先輩である桐生順平がやって来て、選手班長の白井英治、寺田祥もこれに続いている。そのうちに、選手負傷のアナウンスが流れた。緊迫度がさらに高まる。中田の妨害失格も告げられ、「5が妨害!?」と訝る声も聞こえた。とにかく、辻と中田の容態が懸念され、レスキューが戻るのを選手たちは待ちわびていた。

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 レスキューが接岸されると、担架が運び込まれた。最初に中田、次に辻が担架に乗せられ、医務室に運ばれている。選手にとって、こうした事態はまったくもって他人事ではない。中田には関東勢が、辻には中国勢が駆け寄っていたわけだが、その場にいた選手は誰もがみな、複雑な表情で辻と中田を見つめていた。

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 そのうちに10R出走組がピットに戻ってきて、エンジン吊りが始まっている。その作業をしたあとには、田村や湯川が心配そうに医務室に駆け込んだ。自身も危なかった菊地も同様だ。3人ともに険しい表情で、これは敗戦を悔やむようなものとは明らかに気配が違っていた。田村は着替えてモーター格納に向かう際にもまだ、渋面を作っており、辻と中田のことが気がかりのようだった。

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 幸いなことに、意識を失うような事故ではなく、その後に辻は自力で歩行していた。そして、明日の出走表にも名前が載った。一方、中田は足を負傷しており、自力で歩くことが困難なようだった。着替えを終えたあとには、毒島誠におんぶされて再び医務室に向かっている。結果、残念なことに中田は途中帰郷となっている。ダービーのピットで語っていた「トライアル1stからの出場だとしても、できるだけ7位に近い順位で行きたい」に関してはかなわぬこととなってしまったが、そんなことよりも今はただしっかりケガを癒し、その間に牙を研いで、グランプリに向かってほしい。

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 終盤ピットは、そんなふうに一時的に暗鬱な空気にもなったわけだが、明日からも選手にはケガなく、激しいバトルを繰り広げてもらいたい! そして、そのための準備も、騒然としていた間も着々と進んでいた。森高一真や三井所尊春が本体整備をしていたり、田村がモーターが損傷していないか点検していたり、もちろん多くの選手がプロペラを叩いたり。バトル・マスト・ゴー・オン。我々も中田らの容態を案じつつ、運命の勝負駆けを味わい尽くそう。

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 それにしても、晩秋の夜の下関は寒い! この季節のナイター取材は未経験なだけに、じわじわと身体が冷えていく感じに戸惑ったりもした。しかし選手たちはまるで気にしている様子などない。片岡雅裕、竹井奈美、中村桃佳は10R発売中まで試運転だ。冷たい空気を切り裂いて、水面を駆け巡っていたのである。女子選手が遅くまで試運転をするというのは織り込み済みとはいえ、暑かろうが寒かろうが何も変わらない姿勢にはやはり感服するというもの。もちろん片岡マーくんの必死さにも頭が下がる。暮れの大一番のイスをもぎ取るため(いや、中村は優勝してもクイクラ行きは厳しいのだが)、誰もが懸命に戦っている。やはり我々もその姿を目に焼き付けておかねばならないだろう。

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 11R、長嶋万記が1号艇で2着。すでにクイクラ出場は確定だが、そんなことは関係なく、インで敗れた悔しさを滲ませていた。そう、グランプリでもクイクラでも、出場が決まっていたとしても緩めることなどあり得ない。チャレンジカップは言うまでもなくスーパー勝負駆けだが、それとは無関係の、今年好調に戦ってきた上位勢も全力で優勝をもぎ取りにいく、実に贅沢かつシビアな一戦なのである。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)