超既視
ヤバイもんを見てしまった。10R5号艇の関浩哉54号機。反則レベルの鬼足。スリットほぼ同体の5コースから全速のまくり差しを繰り出した関は、バック直線で2、3番手に進出した。まあ、このあたりはスピード豊富な関の常套手段で、目を惹くほどではない。達者な割り差しではあったが、インからすんなり逃げた井上一輝には遠く及ばない攻めでもあった。
エースモーターの底力で、なんとか2着には来そうだな。
そう見ていた2マーク、内水域が渋滞すると察した関は外から外へと全速でぶん回した。この判断もお見事。内の中村桃佳らが深い引き波で四苦八苦しているのを横目に、波のない航跡は楽々と2番手を取りきっていた。1マークも2マークも、関の判断の速さとターンスピードが反映された“2着”。そんな印象だった。
ここからだ。的確な握りマイで後続を斬り捨てた関と、逃げる井上との差はほぼ2艇身。相手がB2級のルーキーならともかく、百戦錬磨の先輩では大差と言うべき2艇身に思えたのだが……2周1マークの関は、5m近いホーム追い風にも関わらず全速のツケマイを放った。小回りで応戦した井上は直進し、握った関は風に流れてゲームセット。出口ではそんなよくある光景に見えたものだが、そこから力強く出て行ったのは逆に関54号機の方だった。
1艇身差が半艇身、半艇身差がぴったり同体になったスリット裏。まだまだ内が有利な隊形なのに、まったくそうは思えない。数秒後には半艇身、2周2マークの手前で外から完全に1艇身出切ってしまった関が、あっという間にターンマークを先制して1期上の先輩をブッ千切った。ヤバイもん。反則レベルの鬼足。2マークから競って競っての逆転勝利だったというのに、勝ちタイムの1分50秒5は今日のトップタイ記録だった。同じタイムを叩き出したのは、9Rでインからすんなり逃げた中村晃朋と、4Rで美味しい展開差しを決めた関浩哉自身。何から何まで、ちょっと考えられないようなヤバイ連勝だ。
ん?
レース後、ちょっとしたデジャヴに見舞われた私は、オフィシャルの記録集をクリックした。やはり、【フライング1本持ち・連勝発進】という事象は、3年前のこのシリーズの関浩哉に合致する。あえて違う部分を探すなら、関がまだ24歳でA2級だったこと。連勝の枠番が今日の3・5号艇よりも軽い3・2号艇だったこと。そして、相棒のモーターが30%に満たない低調機だったこと。
――3年前の関がこのファクターで優勝したことを踏まえるなら、それ以上の条件をすべて兼ね備えている27歳の関は5日後にどうなる?
空恐ろしい54号機の鬼足を脳内で走らせつつ、その自問に対する私なりの回答はひとつしか浮かばなかった。初日だというのに。(photos/シギー中尾、text/畠山)