●フライング後でも
終盤、プロペラ室を覗き込むと、熱心にプロペラ調整に励む池田浩二の姿があった。池田は前半6Rで痛恨のフライング。もちろん賞典除外である。しかし、目の前のレースを投げることはない。もちろん、勝ち上がりを狙う選手とのモチベーションの違いはあるかもしれないし、また明日からは外枠が回ってくるので苦戦が予想されるわけだが、ただ漫然と走るなどということはありえない。しっかりと準備をし、できうる限りの戦いを水面に投影するのである。ということで、12R1号艇はコンマ12の好スタートから逃げ切り! お見事である。
●危ない!
10R、1コースから先マイした瓜生正義が出口でキャビってバランスを崩した。その瞬間、ピットでは選手たちの「うわぁっ!」という悲鳴にも似た声があがっている。幸いにもというか、さすがというか、なんとか立て直して走り出した瓜生に、他の選手たちも安堵しているようだった。
一緒に戦った選手たちも驚いたようで、勝った白井英治は陸に上がってまず瓜生のもとに駆け付けて、「大丈夫!?」と瓜生を案じていた。もちろん勝ったのは白井の実力、それでも歓喜よりもまず、瓜生への配慮が頭にあったようだ。
で、瓜生はその白井に「ごめん」と頭を下げている。先マイした自分が失速したことで、他の選手に迷惑をかけたと瓜生は考えていたのだ。一人一人のもとに歩み寄って、全員に頭を下げた瓜生。もちろん全員がむしろ瓜生に気を遣うような振る舞いを見せていたのであった。1号艇を落としてしまったのは痛いが、とにかく無事で何より!
●風のように去る
白井英治は、瓜生のもとを訪れたあと、すぐさまカポック脱ぎ場へ。勝利者インタビューがあるので、素早く着替えを済ませようとしていたわけだ。
と思ったら、それだけではなかった。帰宿バスの1便は10R終了後に出発。白井はこれに乗りたかったんですね。インタビュー後、帰る準備を超特急でして、猛ダッシュ! すでに1便バスは動き出していたのだが、白井はこれを追いかけて滑り込みセーフ! その伸びはチルト3度に匹敵していた(?)。早く帰れたのだから、ゆっくり今日の疲れを癒してくださいねー。
●逃げ切り快勝!
11Rは平本真之がイン逃げ快勝。危なげない逃走劇であった。喜びも悔しさも隠さない男・平本は、ピットではやはり爽快な表情! 予選1号艇の1着で大騒ぎする、というわけではなかったが、気分良さそうな微笑を浮かべ、満足気に控室へと戻るのだった。
その前には、瓜生とは状況は違うものの、一人一人の選手に頭を下げに回っている。そうか、番組をよく見れば、全員が先輩なんですね。ということもあって、実に丁寧なあいさつ回り。好漢ぶりがあらわれていた。
●死ぬかボートか!?
競技棟の入口にはデジタルのスリット写真が掲示されるモニターがある。レース後にはここに選手が集う場面がよく見られるわけだが、11R後にはこのモニター前で峰竜太と渡辺浩司が長く話し込んでいた。全艇が1艇身前後のスタートで、3コースの峰が2コースの渡辺に対しては少しのぞいている隊形。それを見ながら、スタート時の様子を振り返り合っているようだった。
で、気になったのは渡辺のTシャツ。背中に「DEAD OR BOATRACE」! 死ぬかボートレースか! 何たるボート愛! 意気込みは素晴らしいと思いますが、事故には気をつけて、長くその勇姿を見せてくださいね。遠い将来に引退後も素敵な生活を!
●乗れています!
Tシャツの背中といえば、石渡鉄兵もずっと気になっていたのだった。
「鉄ちゃんが乗れています」
ダハハハー。よく車の後部に「赤ちゃんが乗っています」というステッカーは見かけたりするが、そうですか、鉄ちゃんが乗れていますか。鉄ちゃんといえば鉄道マニアを想像するわけですが、たしかにボートファンにとっては鉄兵ちゃんですわな! 今のところはまだ調子に乗り切れていない今節、明日から巻き返して、有言実行(?)にしてほしいところであります。
●選手たちの観戦
喫煙所のベンチからは水面が見渡せるので、ここでレース観戦をしている選手も少なくない。ただ、平和島は海水面なので潮の満ち干があり、時間帯によっては係留所の屋根などが対岸のビジョンを隠してしまうことになる。つまり、ベンチに座っていては、ビジョンが見えなくなるのだ。というわけで、ダッシュ勢がブルルンとフルスロットルになると、みな一斉に写真の態勢に。屋根の下を覗き込むかたちでビジョンを見つめるのだ。
いやね、実際は立っていればビジョンは見えたりするんです。私も立ってビジョンを見ている。ただ、こうして覗き込むと、2マークの攻防、各選手のハンドルワークやレバーワークが生で、しかも間近で見えるんですな。私などレース展開を追いたいのでビジョン重視ですが、選手は生で見ることで得られるものがあるんでしょう。なお、3周目に差し掛かる頃、どの選手もやおら立ち上がってボートリフトに移動。エンジン吊りの準備を始めるのであります。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)