BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――努力重ねる

 6Rで丸野一樹が転覆。すぐに転覆整備を始めて、8R発売中に真水の水槽で塩抜きをしていた。海水のレース場にはこうした水槽がどこにでもあって、最終日に全レースを終えた選手たちはモーター返納の前にここでエンジンを噴かせて塩抜きをしていたものだが、現在はモーター全体を真水で洗浄する場が多く、水槽を使う場面はほとんど見かけなくなった。転覆した選手が緊急的にやっているのを見る程度だ。だから、今ではけっこうレアな光景なんです。
 それはともかく、転覆による負傷はなかった模様。「大丈夫?」と問いかけたら、「大丈夫!」と元気に返して、整備室へと全力で駆けていったのだった。モーターを格納するのかな、と見ていたら、あらら、モーターをボートに積んだぞ。丸野は転覆にもめげず、いや、転覆してしまったからこそ気配をチェックせずにいられなかったのか、水面に出ていって、試運転を繰り返したのである。その精力的な動きを、どんなときにも欠かさないからこそ、今の丸野があるってことでしょうね。転覆でモーターを割ったことが、逆に好転しないものか、と思ったり。

 試運転といえば、上野真之介も精力的に行なっていた一人。今日は3Rで逃げ切ったが、初日は6着大敗で、まだ上積みが欲しいところ。勝って一安心といったところだろうが、そこで動きを止めないあたりがSGレーサーの姿ということだろう。水神祭の記事で、河合佑樹とともに飛び込んだことを記したが、その後も大急ぎで着替えて試運転を再開。午後の時間帯はなかなか多忙だった上野なのだ。

 9Rで菊地孝平がまくり差し快勝。ピットに戻ってきた菊地の表情は実に高揚していて、力強さをたたえたものだった。会心の勝利、といったところだろう。
 赤の勝負服をはだけた瞬間に気づく。あ、オレンジベスト着てるじゃないか。この9Rは、51.5kgでの出走。0.5kgの重りをオレンジ色のベストに積んで、最低体重である52.0kgに合わせたというわけである。
 菊地は重量級とまでは言わないが、体重は少々あるほうで、公式プロフィールにも55kgとある。もう10年くらい前だろうか、菊地と体重談議になって、減量ばかりに気を取られると体調に師匠が出てパフォーマンスに影響する、だからここぞという時以外は、そこまで体重を気にしないことにした、と言っていたことがあった。かなり前のことなので方針も変わっているかもしれないが、実際に54kgや55kg近くでの出走も少なくないのである。しかし、8月のメモリアルでは4日目からベストを着用し、9月の徳山周年でも着用。その後のびわこと児島では増えたが、昨日からまたベストである。メモリアルは地元浜名湖SGだったから、まさにここぞの一戦だった。そして、年末も近づいてきて、このダービーもここぞの一戦ということだ。減量は気合というメンタルの発露でもある。あの高揚感たっぷりの表情は、減量も含めての、メンタルが仕上がったサインなのかもしれない。

 8Rでは吉川元浩が逃げ切った。その吉川に寄り添ったのは、なんと守田俊介。近畿地区同士だから不思議ではないが(エンジン吊りにも参加していた)、あまり絡みを見た記憶がないだけに、興味深く眺めたというわけだ。守田が右手の人差し指で、空中に小さな円をいくつも描くようなアクションを見せると、吉川も同様に右手の人差し指でクルクルクル。えーっと、どんな意味が? まったくわからなかったのだが、ふたりとも真剣な顔つきだったので、レースに関することのようではあった。空中にエアでサインを書いているようにも見えたんだよなあ。もう17年半もSGピット取材をしているのだが、まだまだ初見の光景というのはあるものです。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)