BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――貫禄

 まずは倉持莉々の健闘を称えたい! 瓜生正義と競り合って、しっかり捌いての3着。これはまぎれもなくアッパレ案件だろう。そりゃあ、遠藤エミのSG制覇にはかなわないが、GRANDE5のメダルを手にしたのはその遠藤と倉持だけなのだ。メダル授与制度がなかった頃だって、残念ながら舟券絡みはできなかった。それを考えれば、わずか2回目のSG出場歴という倉持が、並みいるSGウィナーと渡り合って舟券圏内でゴールしたのは、明らかに快挙である。
 レース前、同期の中村桃佳と話し込む姿があった。それが精神的にはいい後押しになっただろうか。いよいよレースに向かうという直前には、笑顔も見えていたのだ。そうして臨んだSGファイナル。これは大きな自信になったものと思う。レース後はメダル授与式があるため、陸に上がるや否や、濱野谷憲吾とともに控室へと猛ダッシュ。どんな心持でレースを終えたのかはうかがえなかった。ただ、レース後にそうした儀式のために動く経験をしたのは、女子では遠藤と倉持のみ。またこの流れを味わいたい、次はウィニングランのあとに、という欲が出てきたとするなら、次のSG登場が本当に楽しみである。

 敗者で、はっきりと顔を歪めていたのを確認できたのは、深谷知博だけだった。カポックを脱ぎながら、たしかに端正な顔が崩れたのだ。結果的にほとんど見せ場を作れなかったことは、やはり屈辱だったに違いない。なにしろ、①アタマの舟券では圧倒的に④のヒモが売れていたのだ。それを見ていたのなら、なおさら悔しさも増したことだろう。

 あと、山田康二がカポックを脱ぐ間ずっと、遠い目になっていたのも印象的ではあった。あえて胸の内を表情に出すまいとしているようにも見えて、やはり屈辱に耐えているという雰囲気だったのだ。SG水神祭はまたお預けになったが、そのチャンスは近いうちにきっと訪れるだろう。

 それにしても、完璧な勝利だった。コンマ12という過不足ないスタートを決めての先マイ逃走。まさに危なげないイン逃げだった。足が仕上がった石野貴之は、もうどうしようもなく強い。強すぎる。終わってみれば、まさに勝つべく人が勝った優勝戦だったということなのだろう。
 これが10度目の優勝、もはや貫禄という言葉しか浮かんでこない。Vゴールを決めたあとの流れも、もう慣れたもの。ルーティンワークをこなすかのごとき余裕のたたずまいでインタビューを受け、レンズの放列の前に立ち、ウィニングランに向かう。まさに流れるような動きである。

 もちろん終始笑顔がこぼれているわけだが、特に深い笑みになったのはボートに乗っての撮影に西山貴浩が加わったときだ。西山のことだから当然、笑いをとりにいくわけだが、その横で石野は実に楽しそうに眼を細めていたのだった。個人的には、少し離れたところで待っていた山崎郡にも入ってほしかったなあ。でも西山があまりにはしゃぐから、あれはちょっと入りづらいよね(笑)。
 撮影が終わり、ウィニングランのためレスキューに乗り込む直前、松井繁が握手を求めて歩み寄った。石野は深く頭を下げ、尊敬する大先輩の祝福にまた目を細めた。それは西山の時のような細くなり方ではなく、まさに感動の笑みに見えた。

 ウィニングランから戻り、待っていた山崎には「郡ちゃん、ゴメン。長くなりそうやわ」と声をかけて、着替えに向かっている。このあといったい何があるのか、もう知り尽くしているわけだ。それがまた、貫禄と感じられて、10回も重ねてきたSG制覇の重みを感じさせもした。

 やっぱりすごいわ、この男。僕は控室へと消えていく背中を見ながら、改めてそんなことを思ったのだった。その実に自然体な優勝後の姿を目の当りにしたら、そう思うしかない。石野は来週41歳になる。脂が完全に乗るのはまだまだこれからだ。今後いったい、何度同じような、貫禄たっぷりに過ごすSG制覇後の風景を見ることになるのだろうか。もしかしたら、大先輩の王者の回数を超えて、大々先輩のモンスターの回数にも迫るのか。そんな想像も頭の中に浮かびつつ、芦屋のピットを後にした次第だ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)