開会式後にピットに入ると、係留所は満艇状態。初日あるあるの光景ではあるが、だから装着場だったり整備室だったりは、かなり空間が大きく感じられる。ようするに、選手の姿が少ないのだ。１Ｒの展示が終わると、多くの選手が係留所で作業や調整をしていて、装着場などは閑散とした雰囲気すらあった。みな初日の調整に早くもピッチを上げていたというわけだ。
整備室もやっぱり人っ気が少ないのだが、そんななかでひとり、中亮太が本体を割っていた。開会式では、伸びを来させるペラの調整がわからないと、ファンに向かって「よかったら誰か教えてください」とトボけていたわけだが（笑）、どうやら自力で本体整備によって引き出そうと決めた様子。って、当たり前だ。敬愛している西山貴浩も同様だが、ちゃらけていても仕事には実に真面目なのである。
ペラ調整所も選手の姿が少なかった。初日にしては珍しい光景であるが、それだけ係留所や水面に選手が多かったということ。下関のペラ調整所は整備室の奥にあって、死角も大きいのではっきりと視認できる選手は多くはないのだが、黒野元基が出入り口付近で懸命にハンマーを振るっている様子は目立っていた。マッシュルームヘアが目立つせいかもしれないけど。
一方で、余裕綽々の選手もいたりするのである。ドリーム戦に出走する吉田裕平だ。装着場にあった吉田のボートにはモーターが乗っておらず、本体整備かと思いきや、水面際のベンチに姿が。レースが始まるとのんびり観戦をしており、よく見れば開会式に着たユニフォームのままで、着替えもしていないのだった。吉田の引いた51号機は数字こそ低いが、上昇機とも言われており、もしかしたら吉田は前検での調整である程度の手応えを得た、ということかもしれない。
その吉田とともに、２Ｒでは上條暢嵩がそのベンチでレースを観戦していた。ふたりで盛り上がりに盛り上がったのは、３番手争いだ。抜きつ抜かれつになったのもそうだが、この争いに前田滉が参戦していた。前田は事故パンでしばらくは６コースオンリーのレースをしていたのをご存じの方も多いだろう。今節も事故などできないところで、しかし勝負を捨てずに先マイを放ったり、それでも接触しそうになるとハンドルを切り直して回避しようとする前田を見ながら、上條と吉田がやんやと声をあげていたのである。しかも、結果３着をもぎ取ったのだから、ふたりは大ウケ。そこにはもちろん称賛の意味も込められていただろう。
前田の置かれている状況を他選手も知っているから、ピットに上がってきた前田には多くの選手が声をかけ、笑っていた。ひととおりそんなやり取りが終わると、ボート回りで滉を中心に篤哉、翔の３兄弟が揃い踏み！ レーサーになる前から篤哉と仲が良かったという板橋侑我も加わって、レースを振り返り合うのだった。やっぱりなんの斟酌もなく話し合えるのは身内同士、ですよね。ともあれ、前田のモーターはひそかに評判だったりもするから、事故パンだからといって軽視しないほうがいいかも。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 黒須田 ＴＥＸＴ／黒須田）
