BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――デ・ジャヴ?

 装着したモーターをくいっと持ち上げ角度をつけた状態で作業していた井口佳典。その作業を終えてモーターを下ろそうとすると、ボートの舳先がカッと持ち上がった。下ろそうとして舳先がまた持ち上がり、また下ろそうとして舳先がやっぱり持ち上がり、こうなるとモーターを下ろすことができない。ようするに、ボートがバランス悪く架台に乗っかっているというわけなのである。

 通りかかった徳増秀樹が、それに気づいた。「直そうか?」。井口ひとりでボートを動かすのは不可能なので、徳増が気を利かせたというわけだ。しかし井口は「いいっす!」。自力でなんとかしようという腹積もりなのだ。「ほんとに?」「大丈夫っす!」「いいの?」「大丈夫っす!」と結局井口が押し切って、井口は小刻みにモーターを下ろしていって、見事に下ろし切ったのだった。お見事! 徳増の気遣いもさすがでありました。
 といった光景につい見入ってしまうほど(笑)、初日とくらべて穏やかな空気の2日目朝でありました。

 その頃、試運転から上がってきた松井繁のもとに、末永和也が駆けつけた。これは新鮮な絡み! おそらく松井と末永は足合わせをしていて(ピットにいるとその様子が視認しにくいのです)、松井はそのままリフトへとボートを導き、末永は係留所にボートをつけて、ダッシュで松井を出迎えたというシーン。足合わせ後は係留所や装着場などで情報交換をしているのが通常で、おおむね後輩の選手が先輩のもとへ走っていくもの。松井がリフトに向かったのを見た末永が、大急ぎで向かったということだろう。

 ボートの舳先を引っ張って、松井がボートを押すのをヘルプした末永は、装着場の一角に導くと、松井と会話を始めている。やはり足合わせの情報交換だ。それにしても、王者と別支部の若者の絡みはやっぱりフレッシュ! 末永は99年生まれだから、松井がSG初制覇を果たした96年には生まれてもおらず、和也くんが生後10カ月のころにグランプリ制覇。その2人が今、SGのピットでトップレーサー同士として会話を交わしているのだから、うーん、これは感慨深いシーンだ。そうかあ、俺も末永が生まれる前からボートレースを見てるんだなあ、と我が身をも振り返ってしまった次第でありました。

 さて1R。昨日の夕刻に前夜版を見た瞬間に気づいてはいたのです。1号艇・藤原啓史朗、2号艇・宮地元輝。これは一昨年の福岡周年優勝戦と同じ組み合わせ。宮地のレーサー人生を劇的に変えた、GⅠ初制覇の一戦である。あの再現が戸田で展開するのか? いや、宮地の足は厳しそうだし、ここはさすがに……と宮地の2コース逃がし率の高さを重視して藤原を本命にしたワタクシであります。いやあ、これはデ・ジャヴか! あのときと同じように、宮地が藤原を差し切った! 藤原2着も同じで、レース後の藤原は二の舞となったことも頭をよぎったか、かなり悔しそうに顔を歪めていたのでありました。なお、その後にはたまたま隣り合って置かれていたボート回りで後半レースの準備をしながら、親し気にレースを振り返っていた二人であります。もちろん仲がいい二人なのです。

 で、公開勝利者インタビューに向かう宮地に「博多のデ・ジャヴかと思った」と声を掛けたら、「あれは実力でしたけど、今のはこれぞチョロ差しって言うんですよ!」。そして「(自分のファンの人も)今のは買えん!」。ようするに、やっぱり足は厳しいのだ。福岡周年の差しは、宮地が長く磨き続けた「1マークはできるだけ奥まで行って、小さい旋回半径でスピードをもって差す」という独特のテクニックが炸裂したもの。ただ、これを繰り出すためには特に回り足が仕上がっていなければ不可能で、福岡ではそこもうまくいっていたのだ。だから「あれは実力」となるわけで、この1Rはたまたま刺さっただけ、ということなのだろう。というわけで、その後もさらに調整を始めていた宮地。それにしても、この人は走りも表現も本当にオリジナリティがありますね。

 このあとの2Rは、山本寛久が逃げ切り。目の前で同支部の後輩が差されたのを見た直後だったわけだが、藤原の分もというわけではないだろうけど、レース後は茅原悠紀や吉田拡郎、そして藤原らとにこやかにレースを振り返るのだった。藤原も先輩の逃走に意を強くして、後半で巻き返しを!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)