BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ファンを背負う

 宮地元輝が力なく言うのである。「まくってやろうと思ったのに……申し訳ないです」。9R6号艇だ。僕はピットにいたので確認し切れていなかったのだが、宮地はチルトを0・5度に跳ねて勝負した。戸田のマックスの角度だ(幅員が狭いので0・5度までしか認められていない)。「100円でも買ってくれる人がいるから……」。たしかに6号艇では人気薄になるかもしれない。しかしアタマで買う人は必ずいるのだ。ならば勝って応えたい。そこで宮地はチルトを跳ねることを決意したのである。150mあたりで身体を使ってタイミングを調整したら思いのほかスタートが遅れてしまったそうで、まくれる隊形には持っていけなかったが(それでもコンマ12)、その思い自体が尊いではないか。そして、肩を落として悔やんでいる姿がまた素敵である。やっぱりこの男、面白すぎる! 明日もまた、自分を買ってくれるファンのために、宮地は全力を尽くすことだろう。

 1号艇で敗れるととりわけ悔しがる選手が多いわけだが、勝つ可能性が最も高い枠番、さらにはコースに入りながら取りこぼすと悔しいのは当然。そして、最も多くのファンがアタマから買ってくれているのに、それに応えられなかった背徳感というのももちろんあるわけである。10年以上前、森高一真がチャレンジカップを1号艇で優勝した際、ぜんぜん緊張していなかったのに、直前にオッズを見て自分から売れまくっているのに気づき、いきなり震えが来たと言っていた。インが偏向的と言えるまでに強い現代ボートレースでは、1号艇は最もファンの期待を背負う枠番になりやすいわけだ。
 9Rを1号艇で敗れた島村隆幸もやはり、レース後は思い切り顔を歪めて悔しさをあらわにした。4着と舟券圏をも外したから、なおのこと悔しさはつのったことだろう。島村は1コース1着率8割のイン巧者だが、同時に10割とはいかないということでもある。必ず悔恨にまみれる瞬間がそれなりにあるというわけだ。

 10Rの1号艇は井口佳典で、1マークでは山本寛久に差しを許してしまっている。井口としては失敗したレースだったはずだが、2マークで山本がターンマークを大きく外し、切り込んだ枝尾賢もろとも差し返した井口は、2周1マークで先マイし逆転。まさに薄氷の勝利であった。そういうレースだから、ピットに上がった瞬間から井口は苦笑い連発。やっちまった、という思いと、なんとか抜くことができたという安堵。それらがない交ぜになって生まれた苦笑いだろう。やはり1号艇というのは、特にこのクラスの選手にとって勝っておかなければならない枠番なのだ。

 そうは言っても、もちろん2~6号艇は指をくわえて勝たせるわけにはいかないのであって、だから山本も差し切ったときにはしてやったりだったはずだ。ところが、まさかのミスターンで一気に3番手まで下がってしまうハメに。というわけで、レース後の苦笑は井口よりもさらに深く濃いものとなっていて、その無念ぶりが強く伝わってきたのだった。掴んだはずの勝利が手から零れ落ちてしまったのだから、地団駄踏みたくなるのは当然。そのまま先頭をキープできていれば今日は連勝だったと思えば、さらに虚しさがつのるというものだろう。

 さてさて、ここまで選手たちが整備していた話もいろいろ書いてきたが、レースを終えて即整備という動きを今日も頻繁に見かけるのだった。8Rを4着に敗れた板橋侑我もそのひとり。実は板橋は朝も本体を割っていたのだが、この8Rを走り終えてエンジン吊りを終えると、速攻で着替えを済ませて整備室へGO。すぐさま本体整備に取り掛かったのだった。同期の新開航、宮之原輝紀が順調なだけに、中間着が続く状況は焦りをも生むものだろう。ピストン2本交換で臨んだ8R、さらなる交換なのか、あるいは元に戻すのかは今日の時点では確認できていないが、本体を割らずにはおれない感触だったということは間違いないだろう。

 9R後にはまず石野貴之。ドリーム戦には大きな部品交換をして臨み、今日は交換がなかったが、さらに整備する必要を感じた2日目だったということになる。石野の動きも板橋と同様に素早く、エンジン吊りのあと気づいたら工具を操っている石野を見かけたという次第。

 それよりも早く整備用テーブルについたのが松田大志郎。松田は3Rで1号艇ながら田村隆信のジカまくりを浴びて2着。このときはキャリアボデー交換で臨んでいたのだが、この9R後には本体を割っている。部品交換を行ないそうな雰囲気で、整備士さんとも話し込んでいる様子があった。21年ダービー以来のSGで、何としても存在感を発揮したい今節。どんな手を打ってくるかは明日の直前情報で要チェックだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)