BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ガチンコの中の敬意

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 黒須田も畠山も森高に肩入れしすぎやないかぃ! と言われるかもしれないが、書かずにはおれない。森高一真らしさを見たら、書くしかない。

 先の記事でアップした、中道善博さんと植木通彦さんのエキシビション。始まる直前、森高一真があらわれて、ボートリフトあたりの水面際に腰かけた。レース観戦の特等席だ。森高も伝説の再現を間近で目撃したいのか!?

 もちろんそういう思いもあっただろうが、中道さんと植木さんが戻って来てからが森高の本領だ。森高、いそいそと植木さん、中道さんのエンジン吊りを始めたのである。選手の姿は他になし。そもそもこれはイベントなのだから、選手とは無関係なお話である。だが、大先輩が走っていれば、森高としては黙っていられない。少しでもお世話をしなければと駆けつけるのだ。

 もしかして、実は森高も中道vs植木に熱狂したクチ? そう聞くと、ライブで見たかどうかは、まったく覚えていないそうだ。実はあのレースを見て選手を志したんや、とかだったら意外性満点だったのだが、そうではなかった。つまり、森高は純粋に、先輩に敬意を表して動いたのである。

「中道さんのエンジン吊ったの、初めてやぁ~~~~!」

 嬉しそうに笑う森高。みなさん、森高一真とはこういう男なのである。気になる男でしょ?

 ボートレースは勝負の世界。決して、仲良きことは素晴らしきかな、がすべてではない。だが、真剣勝負のなかの気遣いや敬意や心配りというものがある。それはやはり、いい光景だと思うのだ。

 

 

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 たとえば、10Rのエンジン吊りに参加し、作業を終えた服部幸男が控室へと戻っている。すでに通勤着に着替えており、ということは10R終了後に出発する帰宿バスの第1便に乗るわけだ。発車時間まであとわずかだから、控室に戻って荷物を引き上げ、バスに乗るべきタイミング。ところが服部はふと足を止めて、踵を返すや、水面に見入った。視線の先には三浦永理。11Rのスタート展示だ。三浦は服部にとっては愛弟子であり、3年前の賞金王シリーズで三浦がSG水神祭をあげたとき、服部は優しく微笑んで、三浦の頭を撫でていたものである。

 1便バスで帰るということは、三浦がレースに臨む頃には、すでに宿舎に戻っている。現場でレースは見られない。しかし、せめてスタート展示は見てやりたい。三浦が展示から戻ってくるときまだバスが出ていないなら、声をかけることもしただろう。そうした服部の愛情深き視線が、水面に注がれていたのである。これもまた、真剣勝負の空間に存在する敬意のようなものである。

 

 

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 吉田拡郎も、エンジン吊りの後は、水面をじーっと見つめている。拡郎の場合、展示が終わったあともその場にとどまり、エキシビションを見ていたので、こちらが主目的だった可能性もなきにしもあらずだが、11Rには先輩の川﨑智幸が出走している。これが気になってもおかしくはないだろう。もし、水面の状況を確認するのが優先なのだとしても、そのときには展示を走る川﨑を見つめていたはずである。

 逆に言えば、そうした敬意の交換のなかから、ガチンコ勝負が生まれるのがボートレースの世界ということである。明日からは決定戦組もレースに臨む。さらにガチンコの度合いは大きくなるだろう。そのなかに、きっと選手たちのリスペクトは色濃く息づく。それがまた、戦いに彩りを与えるのは間違いないのである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)