「もうマスターズ(世代)なんだから、落ち着いてやろうと思ってたけど、やっぱり興奮してしまってます(笑)」
菊地孝平が会見で開口一番、言った。そう、それがグランプリ! キャリアを重ねようとも、この舞台を何度経験していようとも、やはりグランプリは特別なのだ。テンションも上がるし、緊張感も高まる。菊地は、明日からは落ち着いて、と言っていたけれども、本当にそうなるだろうか。20年ほど取材してきた感覚では、そういう選手のほうが結果を残しているような気がするのだけれども。
松井繁も、いつだって近寄りがたいオーラを感じさせる王者ではあるけれども、今日はさらにそんな空気が漂っているように見える。そしてそれがまたカッコいい! 住之江グランプリで久々に目の当たりにする王者の姿は、やはりこの舞台にいてこそ、という思いを新たにさせられる。シリーズを走ったところももちろん見ているけれども、やはり気持ちの込め方がさらに違っているように感じられるのだ。
西山貴浩だって同様。勝負に際しては真摯な姿勢で臨む男であるのは間違いないが、それでもいつもよりも声をあげているシーンは少ない。会見でもリップサービスは控えめだった。それは実はレース場入りのときから感じていたことで、何か特別な思いを背負っているような雰囲気さえ感じさせる。
ただし、前検航走後は手応えの悪さがまた、西山を言葉少なにしたところもありそうだ。同期の土屋智則と二人そろって弱めだったようで、その土屋や池永太、柳生泰二といった同期生と首を傾げて話し込んでいる姿も見かけている。
西山によると、特訓や足合わせなどでやられた相手が軒並み中間整備が入ったモーターを手にした面々だったそうだ。誰と具体的に名をあげることはなかったが、調べてみると菊地82号機、平本真之58号機、松井66号機、定松勇樹85号機、瓜生正義33号機が該当。この5基は別物になっている可能性もあるから、明日の気配には注目しておきたい。
もっとも、平本58号機は前節で転覆しており、いわゆる転覆整備も兼ねていた可能性はありそうだ。また、定松は航走を終えてピットに戻ったときには顔をゆがめており、会見でも景気のいいコメントは出なかった。なにしろ「西山さんとも一緒くらいだった」と言っているのだ。ペラで回転を合わせれば良くなるはず、とも言っていたので、明日は調整に根を詰めることになりそうだが、そのあたりも注目しておきたい。
1st組で厳しい感触をあらわにしたのは宮地元輝。航走後にはすぐに本体を整備しており、そのため遅れてあらわれた会見でも声色からしてやや暗めなのだった。トライアル1stは2走しかないことを考えれば、通常の節以上に前検でのネガティブな感触は暗鬱さを生むのであろう。明日もびっしりと調整に時間を使うことになりそうで、初のグランプリはいきなり多忙な一日となりそうである。
2nd組では峰竜太がいきなり本体を割っている。最近の峰はプロペラ以外の調整を序盤にすることも多く、本体整備も珍しくない。それでも、明日明後日はレースがなく、たっぷり時間があるというのにさっそく本体整備に取り掛かった、というのは少々気になるところではある。三島敬一郎の評価では決して悪くはないのだが、果たして。
一方、馬場貴也は早々に着替えて、調整らしい調整を行なっていなかった。2nd組のほかの5人は、それぞれの調整を行なっていなかったのだが、明日から本腰を入れると切り替えたのか、それとも今日はモーターもペラも触る必要はないという、すなわち好気配だったのか。僕にはポジティブに見えたのだが、果たして。
今日はどうしてもトライアル組に目を奪われるというか、その動向を追うのが精いっぱいになってしまって、シリーズ組はなかなか注視することができなかった。そのなかで森高一真がなんだか慌てたように動いていて、西山貴浩に笑われていたことをお伝えしておきます。西山の笑顔を見たの、今日はそれだけだったな。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)