BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――大一番が始まった

 クイーンズクライマックス出場の12選手が前検作業で動き始めて、ピットは一気に空気がヒリリと引き締まったように感じられる。やはり頂点を争う12名のたたずまいは、シリーズ組と比べてもやはり独特のものがある。グランプリの場合、シリーズもまたSGだが、こちらはシリーズがGⅢ、つまりオールレディースと同じ格付けだから、モチベーションが違ってくるのも致し方ないことだろう。もちろんシリーズ組はシリーズ組で奮闘はしているわけだが。
 たとえば、平山智加がいつも以上にピリピリしているように見える。たぶんこちらの先入観がそう感じさせているわけではない。顔つきは明らかに他の前検で見るのとは違う。思い出すのは10年前だ。賞金ランク1位で出場した芦屋大会。あのときの平山は、やはり前検からピリピリしたものを感じさせた。1位という立場から来る責任感もあったのだろう。今回は5位での参戦、あのときとは状況は違うのだが、同じようなものを感じさせるのはどういうことなのか。やはり気合が例年以上に高まっているということだろうか。

 実は昨日、オープニングセレモニー後にいったん管理解除になった渡邉優美、三浦永理とバッタリ会った。渡邉は今日顔を合わせると笑顔で声を掛けてきてくれていて、もちろんそのときの話題で笑い合ったというわけなのだが、水面に下りたあとは完全に顔つきが変わっていた。もはや声を掛けにくいほど、ゾーンに入っていたのだ。ほんの数十分でガラリ一変。基本、穏やかで人当たりのいい人ではあるが、いざレースが始まると目つきが変わることもよくあるのが彼女である。早くも前検からそのモードに入っているのだ。

 ところで、12人のうち、多くの選手が早々にペラ調整を行なってから航走検査に臨んだようだった。独特の伸び型に仕上げる高田ひかるは、もちろんペラの形状も独特だから、今日に限らず前検から大きく叩き変えるのがいわばルーティンだ。だから高田がペラを叩いているのはまさに想定済み。明日は11Rまで、さらに時間をかけて調整を煮詰めていくことだろう。

 ペラ室の隅っこ、いや、本当に隅っこも隅っこでは大瀧明日香がペラ調整をしていた。いや、ゲージを当てている時間が長かったから、形状の確認だけだった可能性もあるが、あまりにも隅っこ過ぎるところでの作業だったので、逆に目を引いたのであった。12位出場で初戦は6号艇。三島敬一郎の見立てでは「ゾーンが狭そう」とのことだから、どう調整していくのか大瀧の手腕が問われるところ。

 早くも本格的にプロペラを叩いていたのは寺田千恵だ。新ペラということだから、当然、前検から調整をする必要に迫られているわけだ。だから、寺田は試運転タイムを犠牲にしてまで、ペラ調整に時間を費やしていた。水面にボートを下ろしたのももちろんラスト。まだある程度の段階までしか調整が進んでいない可能性があるので、前検の気配がレースのころにはおおいに変わっている可能性もあるだろう。ひとまず、明日朝にも寺田がペラを叩いているのは間違いなさそうだ。

 11R発売中に、航走検査が行なわれている。明日のトライアル第1戦の組み合わせ通りに2班編成で、あっという間に終了している。着替えを終えた選手たちを次々と報道陣が取り囲んで、囲み取材が方々で始まる。この光景がまた、ピットに緊張感ある空気を生み出していた。いよいよ戦いが始まった、その合図のようなものになっていたのだ。それぞれの感触をもとに、報道陣の質問に選手が応えていく。それが同時進行であちこちに繰り広げられているのは、なかなか壮観なのであった。

 そうした喧噪の中でも、シリーズはレースが行なわれている! 11Rで今井美亜が3コースまくり快勝。19年徳山ではクイーンズクライマックスを3号艇で優勝した今井が、クライマックス組が入ってきたことで意地を見せた、というのは考えすぎか。あのときはまくり差しで勝ったわけだし。しかし、ピット内の注目は一気にクライマックス組にひっくり返っていて、何か思うところがあったとしても不思議ではない。

 10Rでは松本晶恵が逃げ切り。クイーンズクライマックス2度の優勝がある松本が、しかもともに1号艇で勝った松本が、同じ1号艇で逃げ切ったわけだから、やはりなんだかんだとこじつけたくなるというものです。まあ、レース後にそんな素振りが見えたというわけではありませんが。

 この空気の中で試運転を続ける選手もいる。最年少・川井萌もその一人。なにしろ登番が最も若いわけだから、しかも同支部の先輩がクライマックスに2人も出ているので、航走検査のエンジン吊りには率先して走り回るし、それ以外にも新兵仕事はあるし、さらに懸命に試運転とペラ調整を続けているのだから、実に忙しそうなのである。こうした経験が血肉になって、いつか12月27日に前検を行なう日が来る。それを信じて頑張ってください!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)